備忘録

本の中の食べ物や日々の道具などについて書いたり消したり直したり

手製のバタパン(弥勒)

 貧困状態の物語に出て来る食べ物ってなかなか忘れられない。特に稲垣足穂はハイカラな物語と極貧の随筆・小説のギャップがそう思わせてくれるのかも知れない。

 稲垣足穂の「弥勒」にはそんな印象深いものが沢山ある。挙げたいモノがありすぎるので、まずはいっそ最後に出てきたものを挙げようと思う。

弥勒 (河出文庫)

弥勒 (河出文庫)

そのエミールがお腹を空かせているらしいので、彼女は、手製のバタパン(それには上等の仏蘭西麺麭が使ってあった)と、ビール壜に詰めた珈琲をことづけてくれた。いまや蝋燭に灯が点じられた、と彼は思わずにおられなかった。

河出文庫「弥勒」P287)