手製のバタパン(弥勒)
貧困状態の物語に出て来る食べ物ってなかなか忘れられない。特に稲垣足穂はハイカラな物語と極貧の随筆・小説のギャップがそう思わせてくれるのかも知れない。
稲垣足穂の「弥勒」にはそんな印象深いものが沢山ある。挙げたいモノがありすぎるので、まずはいっそ最後に出てきたものを挙げようと思う。
- 作者: 稲垣足穂
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1987/01
- メディア: 文庫
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そのエミールがお腹を空かせているらしいので、彼女は、手製のバタパン(それには上等の仏蘭西麺麭が使ってあった)と、ビール壜に詰めた珈琲をことづけてくれた。いまや蝋燭に灯が点じられた、と彼は思わずにおられなかった。
(河出文庫「弥勒」P287)