備忘録

本の中の食べ物や日々の道具などについて書いたり消したり直したり

芥子飯(御馳走帖)

 貧乏な状態での食の話は切実で好きだ。そこまで困窮したこと無くても身につまされてしまうのはなんでだろう。 

 内田百閒の「芥子飯」を最初に読んだのは、福武文庫「ものづくし」だった。冒頭の部分の価値観から、共感を抱いてしまう。「人の羨む地位を得た後に蹉跌した」ってわけでもないのだけど、この落ちる感覚に引きずりこまれてしまう。

 私が読んだ福武文庫「ものづくし」は今は絶版になってるので、かぶる作品の多い中公文庫「御馳走帖」の「芥子飯」の方で。

 電車賃として残していた十銭をライスカレーで使ってしまうお話だ。小石川・駕籠町のカフェーで、けばけばしい給仕にビールを勧められても断って、カレー単品を注文して食べる。

 わずかな描写だけど非常に美味しそうだ。

御馳走帖 (中公文庫)

御馳走帖 (中公文庫)

 一匙二匙食ふ内に、女のゐる事なんか気にならない程いい気持ちになった。

(中公文庫「御馳走帖」P98より)