備忘録

本の中の食べ物や日々の道具などについて書いたり消したり直したり

セスピアン(すぐそこの遠い場所)

 この誘惑されるデザートが出てきたのは二つで一セットの本だった。

 最初に私が手に取った本は、ちくま文庫「クラウド・コレクター」。語り手の祖父の残した数冊の古い手帖にまつわる物語だった。

新版 クラウド・コレクター (ちくま文庫)

新版 クラウド・コレクター (ちくま文庫)

食したデザートは、不思議な緑色の果物を甘いシロップに浸したもので、信じがたい程に甘いのだが、所長はとっておきのひと皿と考えているようであった。大事そうに少しずつナイフで切って食べ、食べるたびに目を閉じ、甘味の中に何かを探っている。

(ちくま文庫「クラウド・コレクター」P220より)

 これは、とある国への旅中での「最も上等な晩餐」のデザートだ。この謎のデザートの正体と詳細は、もうひとつの本でわかる。ちくま文庫「すぐそこの遠い場所」で綺麗な写真と共に描写されている。

すぐそこの遠い場所 (ちくま文庫)

すぐそこの遠い場所 (ちくま文庫)

 ちくま文庫「すぐそこの遠い場所」P72にこのデザートの写真と詳細がある。こちらの本についての引用は避けておいて、目印だけ残しておこう。

 ちらりと頭の片隅にずっと残るような綺麗さだ。

 

 ちくま文庫「クラウド・コレクター」は菫色の文字で印刷されている部分もある綺麗な文庫本で、「すぐそこの遠い場所」はカラー写真やイラストの豊富なとても凝った文庫本だ。小さくて面白い本をモノとして好きな人にとって、手元に置きたくなるタイプの本だろう。